第1章

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「おう、来たか」  鋭い眼光と、口の片方がつり上がる笑い方。 歯並びが良く、笑うと歯がきれいに見える。 もう三十過ぎだというのに、悪童のままである。  ジール・シーラスだ。 「乗れ」  オートモービルはこの時代、非常な高級品、贅沢品であるが、彼はまだ市場に登場したばかりの頃から乗り回している。 元々豪商の次男坊であったためそういう暮らしが当たり前だったが、父の事業が破綻してからも自分で随分稼いでいたから、彼自身相当な商才があった。 ことオートモービルについては、イーグで開催されたレースに出場するなど、殊更造詣が深い。  フェイスは今日のオートモービルを見たことがあった。 イーグでも乗せられたことがある。 どうやらイーグからゴルチェまで、船便か何かでわざわざ運んだらしい。 「久々のゴルチェはどうだ?」 「さあな、まだわからん。  ただまぁ、イーグもそうだったが、荒れてるな」 「馬鹿な戦争をしてるからな。  戦費がかさんで金がない。  金がなければ国は荒れる。  役人どもには言ってるんだが」
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