2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
ヨースの邸宅は、基本ゴルチェ風の伝統的な造りだ。
部屋数は二十あまり、女中や使用人が丹念に掃除しているのがわかる。
縁側の床鳴りする廊下をぐるりと歩き、暖のある西方風の応接室へ通された。
「フェイス君、君は葉巻を吸うかね、バナー産の逸品だ、美味いよ」
「頂きます。
普段は短いのしか吸えませんので」
大きな葉巻、しかもバナー産は高級品だ。
小さいのより大きい方が、贅沢な吸い心地である。
煙草好きのフェイスは素直に喜んだ。
「君はマルコムの学者だそうだね」
ヨースはズバリと切り込んできた。
上目遣いになったその眼孔は、笑った口元とあまりにかけ離れて、殺気を孕んでいた。
「そうです」
「君がそうだとは思わないが、ああいうのは困るね。
何が困るって君、尖ってる。
ただでさえ戦争で軍部が息巻いてるのに、国内まで騒がしいと、なかなかに大変なんだよ」
「そうですか」
フェイスは少し苛ついたが、口をつぐんだ。
言い争うのは簡単だ。
だが、そんな事をしてもあまり意味はないし、今議論に勝ったところで、この高官の考えが改まることはないだろう。
そして、自分の考えが絶対に正しいとは、フェイスはなるべく考えないようにしていた。
最初のコメントを投稿しよう!