第1章

8/18

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 ヨースの邸宅は、基本ゴルチェ風の伝統的な造りだ。 部屋数は二十あまり、女中や使用人が丹念に掃除しているのがわかる。 縁側の床鳴りする廊下をぐるりと歩き、暖のある西方風の応接室へ通された。 「フェイス君、君は葉巻を吸うかね、バナー産の逸品だ、美味いよ」 「頂きます。  普段は短いのしか吸えませんので」  大きな葉巻、しかもバナー産は高級品だ。 小さいのより大きい方が、贅沢な吸い心地である。 煙草好きのフェイスは素直に喜んだ。 「君はマルコムの学者だそうだね」  ヨースはズバリと切り込んできた。 上目遣いになったその眼孔は、笑った口元とあまりにかけ離れて、殺気を孕んでいた。 「そうです」 「君がそうだとは思わないが、ああいうのは困るね。  何が困るって君、尖ってる。  ただでさえ戦争で軍部が息巻いてるのに、国内まで騒がしいと、なかなかに大変なんだよ」 「そうですか」  フェイスは少し苛ついたが、口をつぐんだ。 言い争うのは簡単だ。 だが、そんな事をしてもあまり意味はないし、今議論に勝ったところで、この高官の考えが改まることはないだろう。 そして、自分の考えが絶対に正しいとは、フェイスはなるべく考えないようにしていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加