南の独占欲

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そう思って向かった洗面所 窓辺には2つ並んだカップと色違いの歯ブラシ ラックに積んであるタオルからは先輩の服と同じ香りがして、動く度に匂う自分の髪も先輩と同じで、ここに居るだけで先輩に常に抱きしめられてるような感覚になる ふんわり香るシトラス いつから僕はこの香りでこんなにも安心するようになったんだろう その姿を見るのも、声を聞くことすら鬱陶しく思っていたことだってあったのに 時の流れはこんなにも人の気持ちを変えてしまうんだ 「どうしてあんなのがいいの!?僕の方がずっと先輩のことが好きなのに!」 しみじみ思っていたとき窓越しに聞こえたのは必死にそう訴える声変わり前の声 痴話喧嘩なら他所でやってよ 「ねぇ考え直してよ!先輩の言う通りにするから!ヤりたい時にいつでも応えるから!」 うっわ… 今昼間だよ? 教育上よろしくないんだから考えなよ そんなこと大声で言うからその先輩は心変わりしたんじゃない? 他人の恋路なんてどうでもいいけど、聞こえちゃうものは仕方ないよね、ったく 「何とか言ってよ!」 そこで本当に『何とか』って言ったらブチギレするんだろうなぁ ってこのフロアに居る人はみんな思ってると思うよ 鉄板だよね 『何とか言えよ!』 『何とか』 『そういう意味じゃねぇよ!』 っていうやり取りって 「何とか」 …ん?
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