迷走する気持ち

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髪の色が明るい小柄な男に、渡部さんは迫られていた。 腐っている身としては、おいしい場面なのに、とても複雑な気持ちなのは、たぶん、やっぱり、好きなひとだからだ。 女ならまだしも、ライバルは男ときたか! まあ、うん、渡部さん、それっぽいしなあ。 ほんとうに付き合っている山内さんや笹本くん以上に、同性好きそうな雰囲気がある。なんていうか、爬虫類的で。 暑さとか、重さとか、精神的衝撃とか、わたしの脳みその限界をこえたらしい。 取り込み中のふたりに歩み寄り、股ドン男の腕を引いていた。 「うちの経理になにか用ですか?」 「っ中本さん、」 渡部さんしっかりしなさいよ、軟弱な声を出してるんじゃないわよ! 「なに?あんただれ?」 馬鹿にしたように見下ろす視線は残酷で、大きな瞳と長いまつげがそれに拍車をかけている。 整った顔立ちですごまれると、容赦のない冷徹さが際立つ。 しまった、言い寄られているとか甘いシチュエーションじゃないっぽい。 背は渡部さんより低いが、威圧感がある。 「と、図書館の者です!」 「ふうん、いま、個人的な事情で取り込み中だから、図書館とか、関係ない」 「いや、だから、僕は、人違いです」 「だ、そうですが?」 「しらばっくれてんじゃねえよ、」 声の大きさにびっくりして目をつぶった瞬間、ガスッという音と、「佐伯!だれかとおもえば、なに馬鹿なことやってんのよ!」と言う但馬先生の声がした。
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