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「避けてますよね、やっぱり後悔してます?」
言葉を発する口元に、つい目がいってしまう。
その感触とか、吐息とか、あれやこれやが脳裏に浮かんで胸がざわつく。
「いつまで固まってるんですか」
頬をぱちぱちと叩かれた。
「身体、だいじょうぶですかー?」
呆れた様子で言いながらも、おれより少し低い位置にある瞳が微笑みを含んでいた。
なんていう色気なんだ!
年甲斐もなくどぎまぎして、どうしようもなくて、おれは崩れ落ちてしまう。
「笹本、おれと付き合って」
「…は?」
頭上から落ちてきた声は、思いの外、否定的で。
あれ?こういう流れじゃないの?
「え?」
「あ、はい、」
立ち上がって笹本の肩をつかむ。
「ええ!なに、その反応!」
「びっくりしただけです」
「そういうつもりじゃなかった?」
「…山内さん、ぼく、男ですけど?」
「あんなことしといて、性別間違えないよ」
「そうですよね」
「いや?」
「いやもなにも、誘ったのは、ぼくのほうです」
遠慮がちにおれのシャツを掴む腕を引き、笹本の身体を抱きしめた。
「幸、恋人になって」
言い直してみる。
卒業式の後のように、何事もなかったことにはしたくない。
「いいですよ、」
笹本の返事は簡単なもので、全然、実感がわかない。
こんなに簡単なことだったんだ?
「キスしたい、」
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