発展途上な気持ちを抱える

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卒業式の夜、キスしたことに理由はあるのだろうか。 キスされてから自分の気持ちを自覚したものの、どう扱えばいいのか困っている。 相手は年下だし、院生になったと言っても学生だし、なにより、オトコだ。 それでも? 自問自答を繰り返す。 うん、それでも。 近付きたくて、話しかける。 無意識に触れてしまう。 理屈は分からないが、自分の今までの言動から考えれば、好きだとしか思えない。 なんで気がつかなかったのかが不思議なくらいだ。 夕方、笹本は一階で新聞を読んでいた。 なんとなく辺りを見回し、近くにひとがいないことを確認する。 「笹本、院はどう?」 あの夜から、はじめて声をかけた。 笹本はパッと顔を上げると、「ふつう、です」と言った。 驚いた表情は一瞬だけで、いつもの冷静な眼差しに戻る。 でも、「教授がかなりユニークですけど」と言葉を続け、さらに 「それよりも山内さん、もう話してくれないかと思っていました」 そう言うと、柔らかく顔を崩した。 その安堵の表情に、どきどきする。 笹本は、こんなふうに笑うんだな。 嗚呼、柳田さんっ、これがギャップですよね!
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