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「そっか、勇気を出して話しかけてよかった」
冗談めかしつつも、九割は本心。
「この間は楽しかったです、」
笹本はお世辞とかを言うタイプじゃないと思う。
楽しいと本当に言ってくれているなら、すごく嬉しい。
「また飲み行こう、今度は潰れないから」
「お酒弱いのに、いいんですか」
「違う、あの時はあんまり食べてなかったから、それに笹本が強すぎるんだよ」
こんな他愛もないことを言い合えるようになるとはなぁ。
去り際、笹本の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
これまでも無意識でやってきた仕草だが、なかなか厚かましいことをしていると、今になって気付く。
笹本はといえば、されるがまま、うつむいているから表情は見えない。
拒否られては、いない、よな?
笹本が、自然体でいてくれるだけで、とても幸せな気分になれた。
事務所に戻ると、中本さんがおれを見るなり、
「…山内さん、顔面が緩みきっていますよ」
と眉をひそめる。
「中本さん、恋っていいですね!」
一層、怪訝な顔をされても、気にならない。
「同感です、」
「渡部さんまで何を言い出すんですか」
紅一点の中本さんを差し置いて、男二人で恋の素晴らしさに盛り上がる夕暮れだった。
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