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「マユミン!なぜここに!」
男の声は一転、慌てて浮ついている。
足が壁から下ろされると、渡部さんはその場にしゃがみ込んでしまった。
「すみません、事情はわかりませんが、こいつが百パーセント悪い気がします!」
但馬先生は男の耳を引っ張って、「説明しなさい!」と怒鳴る。
但馬先生のお知り合いでよかった。
安心すると、途端にペットボトルの重さが際立つ。
「…とりあえず、事務所入りますか?」
わたしは提案した。裏口は日陰で、先ほどまでが嘘のように涼しい。
まあ、汗が引いた理由はそれだけじゃないけど。
わたしたちはそれぞれに考えをめぐらせながら室内に入った。
25歳をこえたころから、夏でもホットコーヒーを飲むようになった。
但馬先生が事情聴取をしているのをなんとなく聞きながら、人数分のコーヒーを用意する。
男は、「佐伯です、」と不服そうに名乗った。
但馬先生の同期で、博物館の学芸員をしているそうだ。
学芸員として働きながら、北村教授の博士課程にいるらしい。
「ユッキーナと職員が付き合ってるって聞いたから、それなのに、この人とぼけるし」
ユッキーナというのは、笹本くんのことで、つまり、
渡部さんは、人違いで股ドンされていたようだった。
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