風の色を追いかけて

花の金曜日

片付けが終わり、更衣室へ向かっていると店長に呼び止められた。

「笹本！花金だぞ！飲みに行くか！」

「ハナキンの意味がわかりません」

「花の金曜日だよ、今時の若者は知らないのか？土日と休みだから今日は時間を気にすることなく飲んで騒げるって意味だ」

「はじめて聞きました、死語じゃないですか？しかもぼくは明日もバイトです」

まともに相手をすると疲れるので、更衣室へ歩みを進める。

「気分だよ、バイトは夕方からだろ」

更衣室の中には、西川がいた。

「西川、店長がご飯奢ってくれるって」

後輩を遠慮なく巻き込む。

店長のことは西川に任せ、自分は手早く着替えはじめる。

「まじっすか！肉食い行きましょ！いついきます？」

「この際、西川でもいいか、これからなんだけどどう？」

「あぁこれからっすかぁ、きょうは約束があるんですよー！うわぁ、すっげぇ残念！」

「みろ！笹本！みんな金曜日の夜は楽しんでるんだよ！俺らもいくぞ！」

っち、西川使えねえな。

「じゃあ、お先に失礼しまーす！」

明るく帰っていく西川を見送り、

「店長、ぼくも約束があるんです」

苦し紛れに嘘をついてみる。

「さっきはそんなこと言ってなかっただろ」