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「冗談じゃない…」
机の上の荷物を段ボール箱に詰め込みながら茅はため息をついた。
ついこの間事件解決に大きく貢献しただけあってショックは凄まじかった。
──しかも新しい課に配属じゃなくて、激務で有名な公安局に配属だなんて。
茅は客観的に見て優秀だった。警察の養成学校もその年の首席で卒業し、将来の出世も見込めるほどの能力と立場を手に入れていたいわゆるエリートだった。
だからこそ突然の異動には不満があったし、異動先にも不満があった。自分自身で自分自身を買っていたからこそだ。自意識過剰、ナルシスト─と思った方もいるだろうが、そこは目を瞑ってあげてほしいところだ。
そういったわけで突然の異動に茅は不満いっぱいだった。
そして荷物が乱雑に入れられた段ボールを持って茅は本庁の前に止められた黒い車に乗り込む。なんとこれは公安局からの出迎えらしい。
「お待ちしておりました、神崎 茅様」
ただ公安局に配属になっただけなのに、先ほどまでの不満はどこへやら、茅は上機嫌で車に乗り込んだ。運転手がいうには、茅の配属先は公安局の中でも有名な部署らしい。
「なんでそんなこと知ってるんですか、運転手さん」
「なんでって?…まぁ、私も公安局の職員の端くれですからね。滅多に入らない新人さんの配属の話くらいは立ち聞きしますよ」
少し不自然な気もしたがあまり追求はせず、茅はおとなしく車に揺られた。
少しすると車は大きな庁舎のようなものの前で止まった。
「ようこそ、公安局へ」
運転手はそういうと車の扉を開け、茅を先導した。
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