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運転手は丁寧に茅を案内しガラス戸の貼られた部屋に連れてきた。
そこには自分と同じ、スーツ姿の女性が1人。すでに待っていた。
「初めまして、君も公安局の配属なの?」
極力明るい笑顔を取り繕って茅は目の前の彼女に話しかける。彼女はつまらなそうな表情を浮かべて、
「そうじゃなかったらこんなところにいないけど?」
…悪態をついた。
──うわぁ、なにこいつ。やりにくそう。
茅は名前も知らない彼女に少し動揺しながらも、自分の持っていた段ボール箱を床に置いて一息ついた。
そして、しばしの静寂。
「…ねぇ」
静寂を裂いたのは彼女だった。彼女はぶっきらぼうに茅に名前を尋ね、茅も極力フレンドリーにだが名前を尋ねた。彼女の名は神宮 司[じんぐう つかさ]。茅が東地区から配属になったのに対して、司は西地区から配属になったという。
東と西から1人ずつ配属になっていることに茅は少し疑問を覚えたが、特になんの指示もなかったためにその部屋で待ちぼうけを食らうことになった。
しばらくしてガラス戸が開き誰かが部屋に入ってきた。
「神崎 茅、神宮 司、そろっているな。君たち2人は今日からここ、公安局の職員だ。心して任に就くように」
彼は深見 入間[ふかみ いるま]という茅と司の上司にあたる人だった。彼はこの部屋に入ってくるとそう言って、ここでの勤務内容を2人に説明した。2人が思っていた『なぜ自分たちが公安局に召集されたのか』という疑問については、入間自身が2人の能力の高さを買ったからだと説明がなされた。
「この公安局特殊対策課の任務は凶悪犯罪の検挙だ。特に当面の大きなヤマはこれだ」
入間は書類の山を部屋にあった机の上に作っていく。そこにあったのは『桜連続殺人事件』の文字。
桜連続殺人事件──それは今、世の中を1番騒がせているといっても過言ではない連続殺人事件のことである。毎夜毎夜無差別に誰かが餌食となり真っ赤な死体となって発見される、というのが事件の概要だ。昼間はナリを潜めてはいるが夜になると事件が起こるという意味で、この殺人鬼は『夜の殺人鬼』、通称ナイト・ウォーカーとも呼ばれていた。
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