コミュニケーション エラー

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 見た事のあるような街の光景。沢山の人が居るスーパー。写真のように切り取られた光景の中で、御形の寺、僕の家があった。 「あった」  写真の中に入るようにと、典史兄ちゃんが手で合図している。僕が写真に飛び込むと、トスンと床に落ちていた。本を手に取った場所と同じ、典史兄ちゃんと、直哉兄ちゃんの部屋だった。  胡坐をかいて兄ちゃんが、テーブルの本を睨んでいた。 「黒井と、雑賀はどうした?」  典史兄ちゃんと直哉兄ちゃんの名字だ。僕だけ外に出て、二人は出て来ない。 「全く、あの二人は…」  再び本を手に取ろうとすると、本が光の粒になり消えて行った。 「典史兄ちゃん、直哉兄ちゃん、どこ?」  この二人、夕食になっても帰って来なかった。  帰って来たのは、翌日の早朝だった。年配の男性の車の中で、二人は爆睡しながら帰ってきた。  僕は、帰って来たのが嬉しくて、典史兄ちゃんに抱き付いたまま離れたくなかったけど、かんかんに怒った母さんに二人は正座させられた。 「どうして夕食までに帰れないの。約束でしょう。電話を掛けたからいいというものではないの」  畳に座布団もなしに、正座させられ、説教を受けている。  送って来た男性は、父と客間で話し込んでいた。 「すいませんでした」  何度、こうやって謝っている姿を見たか分からない。典史兄ちゃんも、直哉兄ちゃんも何かあると直ぐに飛び込んでしまって、典史兄ちゃんなんて最近一回死んでいる。  でも今回は、僕のせいだった。 「母さん、ごめんなさい。僕を助けに、二人は本の中に行ったのです」  僕も母さんの前で、正座した。 「それは分かっています。でも、この二人には、ここが家なのだときつく言わないと、天に帰ってしまうでしょう」  天に帰ってしまうのは、困る。僕は、そっと典史兄ちゃんを見る。典史兄ちゃんは、苦笑いしていた。直哉兄ちゃんも、同じように苦笑いだ。  どうして苦笑いなのかは、僕は二人の会話で知っている。自分の存在が何なのか分かった時に、そんなに長く地上に居ることができないことも分かってしまったと、言っていた。  でも天使はきっと長生きだ、人間の寿命の分なんて、ちょびっとの時間なのだと思う。僕が大きくなって守れるようになるまで、待っていて欲しい。 「朝食、用意しています」  正座を崩すと、二人とも、足が痺れて暫く動けなかった。
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