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子供は親を良く見ている。幸せになって欲しいと願っている。多分、自分よりもずっと幸せであって欲しい。
「…分かりました…手、貸してやる」
何だかんだ文句を言っても、典史兄ちゃんはやさしい。
帰りに又寄るからと、典史兄ちゃんはかのこちゃんと約束した。
第四章 花火の先に
帰りに又、座敷童子の館に寄ると、売り切れで店を閉めている途中だった。
「一穂、かのこちゃんは?」
イスにまだ座っていた。パパらしき人もまだ店内に居た。多分、典史兄ちゃんは、かのこちゃんの心に呼ばれてしまっていたのだ。だから、状況が待っていてくれる。
典史兄ちゃんは、灰を取り出すとイスに掛けた。
「あのお客様、本日は閉店いたしました」
「俺、霊能力者で黒井と言います。代金は要りません、この子に呼ばれて来ました」
かのこちゃんが実体化した。典史兄ちゃんは、灰を媒体に、霊を実体化する能力を持っている。
「かのこちゃん、言っていいよ」
かのこちゃんは、イスから飛び降りるとママに走り寄った。
「ママ、大好き!」
ママは驚きながらも、かのこちゃんを抱きしめて涙を流していた。
「ママもかのこが大好きよ」
パパも走り寄ってきた。
「かのこ、パパも大好き」
三人で、号泣している。
「パパ、ママ、かのこ一緒に居てあげられなくてごめんね。でも、天国に行ったら、二人にかのこの弟を紹介してあげるからね。だから、仲直りして、かのこ、じゃないと行かれない」
分かったよと、パパとママが手を取り合った。
「では、かのこちゃん。光が見えるよね?」
「花火が見える。前にパパとママと一緒に見たの」
花火?光に近いから大丈夫かな?
「消えるときは、光の方向に進んでね」
典史兄ちゃん、除霊とか浄化とかが全くできない。実体化を解く時の仮の死で、自力で成仏してもらうほかに方法がない。
あっ、かのこちゃんが変な方向にと思ったら、突然現れたお婆さんが、こちらに深く頭を下げて、かのこちゃんの手を引いて行った。
「一穂、無事行ったかな?」
「大丈夫だよ」
ちょっと危なかったけど、光の中に消えて行った。
「じゃ、逃げるよ」
霊能力者は、世の中にとって、無くてもいい存在なのだそうだ。感謝よりも、悪意を多く向けられる。
でも、追いかけてきたかのこちゃんのママが、ありがとうと言って、何か紙を渡してくれた。
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