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母はそれが、すごく可笑しいらしい。母だけじゃなく、時折、寺に来る人も、ギョッとして固まっている。宗教が違うと誰かが言っていた、何かの対立なのか?とか、典史兄ちゃんも色々大変らしい。
「ボクも寺に行ってくる、それからおやつ」
僕は寺に走って行った。寺の大広間には、人が集まって、父の説法を聞いていた。邪魔にならないように、そっと襖を開けて、兄ちゃんを探す。
窓の傍に、寄りかかり眠っている兄ちゃんと、兄ちゃんに寄りかかって眠っている典史兄ちゃんを見つけた。
典史兄ちゃん、夜中まで霊能力者や占い師で働いているし、日中は高校生なのだから、くたくただ。だから、父も眠ってしまっても、怒れないのだろう。
でも、そっと近寄って見て分かった。ここは陽だまりのように、柔らかく輝いていて、皆、たぶん見守っていたのだ。優しい時間は、永遠じゃないけど、見ていて幸せになれる。
僕もここで眠りたい。兄ちゃんによりかかる典史兄ちゃんは、本当に兄ちゃんを信頼していて、穏やかに眠っている。
兄ちゃんは、ファンクラブがあるというから、多分かっこいいのだろう。でも、典史兄ちゃんは、近寄ってはいけない感じもする綺麗な、すごく綺麗な人だ。
典史兄ちゃんのこの真っ白な羽を見てしまうと、自分の色の汚れが分かってしまう。遠くから見ているといいけど、近くで見たら、怖いと思うと母さんは言っていた。だから、典史ちゃんはいつも一人ぼっちで生きてきたのよねと。
僕なら、典史兄ちゃんを一人ぼっちになってしない。絶対にしない。
典史兄ちゃんは、人間を汚いなんて思わない。僕は、典史兄ちゃんを、怖いなんて思わない。
だから、僕が典史兄ちゃんを守れるようになるまで待っていてね。
でも、兄ちゃんを睨む。今、悔しいけど、典史兄ちゃんを守っているのが兄ちゃんだ。
「一穂?」
典史兄ちゃんが、目を開いた。
「あ、眠っていたか…」
羽がゆっくりと伸びる、三人は軽く包める大きな羽だけど、壁をすり抜ける。
「どうした?一穂」
金色みたいな典史兄ちゃんの目は、キラキラとしていて、僕は抱き付いていた。
「おやつ、一緒に食べよ」
笑顔は太陽に日差しのようだ。誰にでも降り注いでしまって、決して独り占めできない。
「そうだな、もうちょっとで説法も終わりみたいだから、静かに待っていような」
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