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でも、典史兄ちゃん、物や人の過去も見ることが出来るし、霊を実体化できる。
蔵に行く典史兄ちゃんの後を歩いていると、
兄ちゃんに追い払われた。
「危ないだろ。来るな」
蔵の中には、座敷童子が遊んでいた。
「蔵馬ちゃん」
僕とよく遊ぶ、座敷童子だった。
「物音の原因か?」
典史兄ちゃんは、蔵の奥へと進むと、一冊の本を持ってきた。
「原因はコレだろう。俺は、霊は見えないが、コレ、霊を実体化するように、本を実体化したものみたいだ」
本にも幽霊がいるとは知らなかった。
「ちょっと借りて読む」
典史兄ちゃんが、険しい顔して本を持って行った。
第二章 本と旅する
兄ちゃん達は、学校からまだ帰って来ない。一人で遊んでいても、つまらない。庭を歩いていると、典史兄ちゃんと、直哉兄ちゃん、二人の部屋の前に来ていた。
そっと中を覗いても、誰も居無い。二人の部屋は、外から出入りが出来るようになっていた。ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。
見てはいけないのだけど、そっと中を覗いてしまった。
フローリングの部屋には、小さなテーブル、他、あまり物は置いていない。テーブルの上に、この前、蔵にあった本が置いてあった。
何が書かれていたのだろう。そっと、本に近寄り、ページを開いた。
古い分厚い本で、茶色に変色していた。中にびっちり文字が書かれているのかと思ったら、何も書いてなかった。
でも、じっと見ていると、文字が浮かんでくるように見えた気がした。文字をじっと見つめていると、周囲が暗くなった気がした。
夜になってしまったのかもしれない、早く部屋から出ないと、典史兄ちゃんか、直哉兄ちゃんが帰ってきてしまう。
「出口どこ…」
ここはどこなのだろう。全然知らない部屋にいつの間にか移動していた。茶色の壁に、茶色の床、電気も窓もない。持っていた本を見ると、ページの中に僕が書かれていた。
壁沿いに歩いていると、遠くに青い空が見えた。僕は、空に向かって歩き始めた。
「そこで待っていろ」
兄ちゃんの声が聞こえた。ドスンと大きな音がして、走って来るような足音が響いた。
「一穂!」
典史兄ちゃんと、直哉兄ちゃんが、茶色の部屋に来ていた。
「何だ、ここ?」
直哉兄ちゃんが、壁を足で蹴っていた。
「本の中だろうな」
ここ、本の中だったのか。
「夕食前に帰らないと、怒られるぞ」
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