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「かッたりィなァ……!?」
そう愚痴りながらも、田嶋は寝間着から銀鼠の着流しに袴。
黒五ツ紋をあしらった巻羽織へと、袖を通す。
両刀と黒房十手を並びに差し、支度を済ませて門を抜けた。
「待たして済まねェな……? 行こうぜ。志村、北大路」
門前には騒ぎを聞きつけたであろう、北大路主膳と志村直三郎の二人。
今や遅しと待っていた様子。
「遅いですよ、田嶋さん!!」
直三郎の渇が入るも、柳に風。
または、馬耳東風。
或いは、馬の耳に念仏か。
何にしろ、四人は歩き出す。
「あンま、年寄りを急かすねェ……? こッちが先に念仏を必要としちまうぜ……!?」
息を切らすが、さもあろう。
田嶋は、御歳四十五歳なのだから。
流石に馬と云う選択肢も有るが捕物や火事出役でもない限り、田嶋は馬に乗ることを良しとしない。
出来る限り、足で稼ぐのが信条と普段から有言実行。
だからこそ、優秀な配下の北大路や志村が刑吏として育ったのかも知れない。
そして愚痴りながらも急ぐ事、少し。
下谷の外れ、月照寺の山門前へ着いた。
緩やかな上り坂の中程にある門の手前には、素っ裸の妊婦だったであろう死体が無造作に置かれている。
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