~第一話~ 一度とて、泣かぬ|姑獲鳥《うぶめ》の涙雨

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 何しろ初物を食べれば、寿命が七十五日延びると言われていたのだから。  その為に野菜では、現代のハウス栽培に近い栽培法も確立されていたのである。  だが、この栽培法は法律違反。  たびたび禁止令が出される程に、結構な評判だったと云う。 「棒手振りさん、一尾おくれ」 「こりゃあ、信州屋さん。毎度、御贔屓に有り難う御座ぇやす」  継次の上得意の一人なのだろう、気安く声を掛けてきた。 「いつも通り、お勝手に回っとくれ。それで、叩きにしておくれでないかい? 使用人と、皆で食べるからね」 「合点で。腕によりを掛けまさぁ」  勝手口の有る裏手へ回り、継次は天秤棒を下ろす。 「さて、始めますかね?」  台所の出刃包丁を借り、継次は三枚に下ろし始めた。       四  カツカツと、リズミカルに木材を叩く音が響く。 「出来具合は、どうかな? 信太とやら」  声を掛けられた信太は、木を叩く手を止めた。 「こいつぁあ畠山の、お殿様。へい、二~三日のうちにゃ元の通りになりまさあ」  どうやら建具が痛んだらしく、畠山と云う旗本は腕の良いと評判の信太を呼んだらしい。 「左様か。この屋敷も、五十年以上前に建てたらしいからの」
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