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みずみずしい新緑も、夜の闇に溶け込めば色は褪せ、撫でる風に乾いた音を鳴らす。
常世から手紙を受け取って二週間。涼はかつての響のように、本殿の蝋燭に火を灯し、毎晩寝泊まりしていた。
ただし灯す蝋燭は一本だけ。
今夜も外れかと、欠伸をしたところで木戸がかたりと乾いた音を立てた。
「涼、久しぶり」
木戸を後ろ手に閉めた響は蝋燭の間に置かれた座椅子にふわりと腰を下ろし、正面の布団で胡座をかく涼に微笑む。
いつかはそこに自分が座っていて、甘い密会をしていた事を思い出し懐かしく思う。
響は旒の下がった冠を取り、そわそわと落ち着きがない涼を見る。
「何だよ、そわそわして。挨拶もなしか」
「いやその。響お前、また綺麗になったんじゃねぇの」
「そうか?」
「半年見ないうちに髪も伸びたし……不老不死んなっても髪は伸びるんだなぁ」
涼はちらちら響を見ながら、両手を懐手に仕舞う。
「半年? こっちじゃそんなに経ってんの? 向こうじゃまだ三ヶ月しか経ってないよ」
時間の流れが違うと聞いてはいたけれど、まさかそんなに差があるとは思わなかった。道理で木戸を潜った時に少し暑いと感じたわけだ。
「へー、のんびりしてんだな。そんで、わざわざ手紙まで寄越して直接話したいなんて、何の話だよ」
「その……お前なら知ってるかなと思って」
「何を? 響が知らねぇで俺が知ってる事なんて何かあったっけ?」
響は姿勢をただし、俯き加減に涼を見て前置く。
「涼に、こんな事聞くのは駄目だと思ったんだけど、向こうで知ってる人が誰も居なくて……お前を頼るしかないんだ。凄い失礼な事聞くけど、先に言っとく、ごめん」
「何だよんな改まって……」
ごくりと響が唾を飲み込んだ音が、境内で騒ぐ虫の音に掻き消される。
「……男同士って、どうやるんだ?」
涼はきょとんと目を丸くし、ぽかんと開いた口は次に大笑い。響は体を縮め涼の大笑いを聞けばひやひやしながら返事を待った。
一頻り笑い、肩で息をし涙を拭った涼の、響を見る目付きが変わったから。
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