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しかし二月も終わろうかとしているのに、煌隆は正月に溜まった仕事が未だ捌ききれず、朝から晩まで屋敷に戻らない。それに伴い将極も、ここのところ姿をろくに見ていない。なので年が明けてからこっち、昼は秌と二人で摂るのが当たり前になっている。本来秌は別室で食事を摂る決まりだが、一人で昼食を摂るのは不憫だと、特別に煌隆が許可している。
「媛响様、何かお悩みなら秌にご相談下さいな」
大根の煮物を口に運んでいた響は、突然心配気に声を落とした秌の言葉に大根を膝に落としてしまった。
空気のように隅に待機していた下女が素早く煮汁を拭いてくれたが、染みになってしまうだろう。
「何でオレが悩んでるって?」
「私の目は誤魔化せませんよ。近頃媛响様は溜め息が多くなりましたし、時折淋しそうに肩を落として。庭園の奥に行く回数も増えました。何かお悩みなんでしょう?」
「秌さんに隠し事は出来ないなぁ……その、あんまり人に聞かれたくないから、オレの部屋でいいですか?」
「勿論です。一緒に参りましょう」
居室に続く迷路のような内裏の廊下は、まだ順路を覚える事が出来ず誰かの案内がなければ入る事も出る事もままならない。
食事を終えた響は、茶器を持つ秌の後について自身の居室に向かった。
入ればすぐに、いつも開け放している格子の窓をピタリと閉める。僅かな光も射さない暗い部屋の行灯に灯を入れれば、まるで夜のよう。
「それで……お聞きしても?」
秌は茶を淹れながら、椅子で膝を揃えてそわそわ落ち着かない響を見る。
「その、秌さん……変な事聞いてもいいかな……」
「あら、私が質問されるのですね。どうぞ、私に答えられる事なら」
響は差し出された湯呑みを両手で包み、息を飲む。くるくる湯呑みを回し飲み頃に冷ましてくれた茶を一息に胃に流し込んでから、ぼそぼそと空になった湯呑みに向かって呟く。
「あの……煌隆って、その、あんまり、夜の営みって言うの? 興味ないんですか……?」
「……えっ? ええと、主上は、どちらかと言えば、積極的なお方かと」
初めは言い淀み言葉を詰まらせたが、秌は聞かれた事に正直に答える。
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