后妃の悩み

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 その夜、連日の激務に疲労は溜まり、晩酌も程々に早く床についた煌隆と一緒に、抱き枕と化している響も早々眠りについた。  秌は煌隆の世話が一段落し風呂場へ向かう将極を呼び止め、露台に連れ出した。  しんと夜の闇の落ちる広場を見下ろし、盛大に行われた婚儀を思い出す。雅やかに着飾り、儚げに煌隆の隣に座った響の姿を瞼に浮かべれば、それはつい昨日の事のようで。  将極も同じ事を思っているのか、二人は暫く黙って広場を見下ろしていた。 「宰相様」 「誰も居らんから畏まらなくても良い」 「では将極。近頃媛响様がお悩みなのは気付いてる?」 「そうなのか?」 「あらあら、男ってのはこれだから。主上がまだ媛响様にお手をつけていらっしゃないのは知ってます?」 「ああ……おれも主上から相談されたのだ」  将極は欄に腰掛け、月も星もない漆黒の空を仰ぐ。 「しかしおれもそれについてはとんと知識が無く、存ぜぬとお答えするしかなかった」 「主上は何と?」 「……男同士のやり方が分からないそうだ」 「あら、まぁ。それは……私も知らないねぇ」  もう随分前に相談されていて、将極はこそこそと官吏に聞き回っていたらしい。しかし答えを持つ者は無く、変装して色町にまで繰り出したがなかなか知る者に出会えない。  いっそ自分で経験してみるかと陰間茶屋まで行ってみたが、異空間のような雰囲気に圧倒され未知の扉を潜る事が出来なかったと。  それでとうとう途方に暮れたのがつい数日前の事らしい。 「えらく熱心だわね」 「……早く解決して差し上げないと、また媛响様が一人で悩んで不安に思われるのではないかと思ってな」 「正にその通り。なかなかお手がつかないから自分の体のせいかと悩んでいらっしゃったわ」  二人は盛大に溜め息を落とし、どうしたものかと顔を合わせる。 「取りあえず秌、これは媛响様にはくれぐれも内密にしておけよ。もし主上のお耳に入れば大変だ」 「ええ、勿論」  きりりと眉を吊り上げた秌にほうっと息を吐き、結局何も解決しないまま将極は屋敷に戻って行った。
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