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数日後、私の生活は元に戻った。夏の大会が近いので、部活動に精が出る。体の仕上がりはたぶん、今までで一番良い。
「ただいまー。」
誰もいない家に挨拶をする。
いや、一人いた。
「みゃー。」
おー。愛しき我がペット、クロが出てきた。真っ黒いからクロ。非常にシンプルなネーミングだ。ちなみにオス。わりと甘えん坊なほうだ。
特徴といえば、クロは後ろ足二本に白い靴下のような模様がある。まぁそれくらいか。それと最近ちょっと、太り気味。
両親は二人とも九時ごろ帰ってくる。二人で小さな八百屋をやっていて、店を閉めてから帰宅する。
わりと自由に休むので、土日旅行に連れて行ってくれたりする。兄弟はいないが、幸せな家庭だ。
自分で夕飯を作り、食べる。食べ終わるのはいつも七時くらい。
そのあたりに、テレビをつけるとちょうど、アニメがやっている。そのアニメを見ながらストレッチをするのが私の日課だ。健全な体に、健全な心が宿るのだ!
九時くらいになり、両親が帰ってくる。
これが私の日常。ありきたりな。たぶん、幸せな・・・。
あっという間に夏の大会になった。結果次第では大学への推薦も決まる。
しかし、私は進学する気はなかった。これといってやりたいこともないし、働きながらだってやりたいことは探せる。両親も先生も説得済みだ。
具体的な就職活動は大会後に始める。なので、この大会は私の陸上人生最後の大舞台だろう。
できれば漆君に見に来てもらいたかった。しかし、あれ以来漆君は学校に来なかった。期末テストも来なかった。本当にクラスメートなのだろうか・・・。
連絡先も知らないし・・・。
気を取り直して、スタートラインにたつ。競技種目は、女子四千メートルだ。大体見覚えのある顔ぶれがいる。決勝ともなると、さすがにみんな緊張した顔つきをしている。
私は大きく深呼吸して、合図を待つ。
私には・・・。何ができるのかな・・・。
不意に心の中がモヤモヤした。
このまま走っていいの?ただ走って誰のためになる・・・。
パン!
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