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私はハッとなった。
集団から五メートルほど遅れた。
なんてことだ・・・。スタート時にボーっとするなんて・・・。私は必死に集団に追いつく。しかし、そのせいで、少し息が上がる。
この感じだとエンジンがかかるまでちょっと時間がかかる。まずは落ち着いて、自分のペースにしよう・・・。
私は一周したところで先頭集団の最後尾にいた。すでに少し足に疲労感がある。呼吸も苦しい。明らかにペースがいつもとは違った。最初無理したせいか。
このまま歩いちゃおうよ・・・。
勝って、何になるの・・・。
ネガティブな声がひっきりなしに聞こえる。
はぁ・・・はぁ・・・苦しい・・・。
ラストスパートのように胸が苦しい・・・。
あと八周・・・。
もう、いいかな・・・。
そう思って私は、うつむいていた顔を上げた。
私は顔を上げ正面のスタンドを見た・・・。そこには、
「漆くん!」
思わず少し大きな声がでた。
漆君は大きく手を振った。
そして、大きく息を吸って、細身な体から声を絞り出して
「るいちゃん!自分に負けるなー!」
叫んだ。
かろうじてここまで聞こえる声。
きっかけはそれで十分だった。
体温があがる。足が動く。手が動く。顔が笑顔になる。
負けない・・・!
会場がどよめく。
私はギアを一気に上げて、トップに出た。タイムや体力なんて、どうでもいい。とにかく彼と話したい。
私はラストスパートに近い加速で先頭を抜いた。
そのままのペースで最後の一周へと入った。もう何人も周回遅れにした。体は限界だが、楽しい。走ることがこんなに楽しかったなんて。早く漆君に・・・!
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