第1章

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私はハッとなった。 集団から五メートルほど遅れた。 なんてことだ・・・。スタート時にボーっとするなんて・・・。私は必死に集団に追いつく。しかし、そのせいで、少し息が上がる。 この感じだとエンジンがかかるまでちょっと時間がかかる。まずは落ち着いて、自分のペースにしよう・・・。  私は一周したところで先頭集団の最後尾にいた。すでに少し足に疲労感がある。呼吸も苦しい。明らかにペースがいつもとは違った。最初無理したせいか。 このまま歩いちゃおうよ・・・。 勝って、何になるの・・・。  ネガティブな声がひっきりなしに聞こえる。  はぁ・・・はぁ・・・苦しい・・・。 ラストスパートのように胸が苦しい・・・。 あと八周・・・。  もう、いいかな・・・。    そう思って私は、うつむいていた顔を上げた。 私は顔を上げ正面のスタンドを見た・・・。そこには、 「漆くん!」 思わず少し大きな声がでた。 漆君は大きく手を振った。 そして、大きく息を吸って、細身な体から声を絞り出して 「るいちゃん!自分に負けるなー!」 叫んだ。 かろうじてここまで聞こえる声。 きっかけはそれで十分だった。 体温があがる。足が動く。手が動く。顔が笑顔になる。 負けない・・・! 会場がどよめく。 私はギアを一気に上げて、トップに出た。タイムや体力なんて、どうでもいい。とにかく彼と話したい。 私はラストスパートに近い加速で先頭を抜いた。 そのままのペースで最後の一周へと入った。もう何人も周回遅れにした。体は限界だが、楽しい。走ることがこんなに楽しかったなんて。早く漆君に・・・!
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