第1章

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眼が覚めると、薄暗い部屋の中にいた。 床はコンクリートでじめじめしている。 秋吉柊羽は不快さに身を起こした。 「な、何だよ、これ」 起き上がってみて、初めに眼に飛び込んできたのは鉄格子。 「嘘だろ」 立ち上がろうとすれば、右足に鉄球の付いた枷が嵌めてあった。 どうやら、自分は監禁されたらしい。 しかし、昨日の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、状況が全く理解できない。 服装は昨日着ていた黒いスーツのまま。身体も、特に暴行を受けた跡はない。 「うーん。考えられる理由は裏稼業だけど・・・捕まるようなドジは踏んでないと思うし、そもそも、それが理由ならとっくに生きてないか」 などと思いを巡らせていたら、コツンコツンと足音が聴こえてきた。 ここは寝たふりかと柊羽は思ったが、それでは犯人は解らない。 仕方なく、胡坐をかいて待ち構えることにした。 やがて、手に蝋燭を持った背の高いスーツ姿の男が牢の前にやって来た。 「お目覚めでしたか、秋吉柊羽君」 やけに顔の整った男は、にっこりと微笑んで柊羽の名を呼んだ。 「誰だ、あんた」 全く見覚えのない男に、柊羽はむっとした。 そもそも柊羽は童顔で背が低いことがコンプレックスだ。自分と対照的な男には、無駄に対抗心が燃える。 「ああ、申し遅れました。私は長浜義昭。あなたと同じ、暗殺を生業としている者です」 「なっ・・・」 がっつり裏稼業絡みで驚いたが、何より同業者に会ったのは初めてだ。 「私は改革同盟に属している者です。改革同盟はご存じですね?」 義昭に問われ、柊羽は血の気が引いた。 改革同盟といえば、そこらのマフィアよりたちが悪いと評判のテロ組織だ。世界中の要人を暗殺の標的とし、経済界を裏で操っている。主義思想があるわけではなく、この世を自分達の手中に収めたいのだ。 「この度、私は秋吉君をスカウトするように命令されましてね。まあ、スカウトというより、都合のいい人形にしろと言われたわけですが」 義昭は不気味に嗤った。 「都合のいい人形だと?」 「ええ、我々の命令を着実にこなす殺人人形に。その為には、手段は選ばなくていいそうです」 そう言って、義昭はぬっと顔を鉄格子に近づけた。 「普通の拷問には耐えられるでしょう。ですから、精神的に支配してあげますよ」 不気味な笑顔のまま、義昭は牢の鍵を開けた。
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