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視界にも入れたくないその箱をつま先で軽く蹴ると、くるくると回りながらカバンの後ろへと消えていった。
「てめっ!食べ物を粗末に扱うんじゃねーよ。いくら迷子チョコだからって。」
「だからなんなのよ、それは。」
「貰い手のない可哀想なチョコのこと。」
「余計なお世話ってチョコが言ってる。」
可哀想なのはチョコレートなんかじゃない。
本当に可哀想なのは、あの人の嘘に騙されたふりをして、笑顔で彼女の所に送り出す、軋む私の心だ。
「だから何度もやめろって言っただろ。彼女がいることをお前に隠してる時点で、どんなに優しくされても本気じゃねーんだって。」
「別に隠してるわけじゃないもの。言わないし聞かないだけ。」
「そもそもそれが間違ってるって、どーしてお前は気付かないんだよ。」
彼の正論に耳を塞ぎたくなったけれど、それはヤツの力強い手によって阻止された。
「お前も本当は彼女がいるって知ってんのに、なんで相手に言わねーの?なんで自分だけ傷ついてんだよ。」
「言ったらきっと終わっちゃう。」
「終わらせとけよ。」
握り締められた手に力が入った。
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