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「俺が一度たりともリアルの女子を語ったことがあったか」
「うん、ないね。勇人の将来が心配になって来るよ」
なんとも要らぬ心配か。俺は二次元世界の住人であり、既に多くのお嫁さんが居るのだから。いつしかこの湿気た味気ない現実世界に別れを告げ、夢いっぱい萌えいっぱいおっぱいの世界に籍を置くつもりでいる。そのときは、親友の陸には去り際に俺の秘蔵PCゲームを譲り渡してやろう。画面で世界を間接的に堪能する必要はなくなるのだから、一つくらいは良いだろう。
「ま、でも勇人は容姿だけは完璧だからなぁ。やる気になればいつでも恋人の一人や二人出来んじゃねーの」
「やーい、フツメン」
「このやろ……」
クラスメイトの視線など気に掛けることなく、互いに煽り合ったり、一方的にギャルゲーを推めたりと、箸は進まずとも、このひと時を確かに俺は過ごしていた。例え、理想を遥かに下回る現実であると心得ていようとも。
徐々に教室も授業の空気へと変わりつつある中、未だそうやって陸との談笑を楽しんでいる時であった。
俺は、17の歳を重ね初めてとも言える奇妙奇天烈な音を聞き取ったのだ。
「……なぁ、陸よ。今なにか変な音しなかったか?」
「いんや? ゲームのやり過ぎで幻聴でも聞いたんじゃぁないの」
ふむふむそうかもな、と恐怖を打ち消す為に納得をしてみたのも束の間、再び聴覚を刺激するそれは俺に逃避を許してはくれない。
――ス
今度は、より鮮明に。肉声であることが明らかになる。
「いやほら、やっぱいま何か変な人の声がしたじゃないか。あれだな、結構萌えボイス」
陸はいつものように適当にあしらうでなく、割と真面目に俺の言葉を聞き入れたようで、耳に手を当て音を集めている。しかし、どうにも理解し難いと顔を歪ませる。
「……? いや、しねぇけど。幻聴まで二次元とか大丈夫かよ。外の風にでもあたってこい」
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