萌ゆるオタク

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 屋上の扉を開けると、心地よい春風が髪を靡かせた。桜は既に散ってしまったが、暖かな春をひしと感じさせる。  グリーンのフェンス越しの景色は見慣れたものだが、俺は落ち着きを取り戻せていなかった。  ーーカス  それもそのはず、萌えなのが唯一の救いではあるものの、消えることのないその声は俺の不安を煽り続けているのだ。いくら俺がイケメン過ぎるからと言って、この仕打ちは無いだろう。イケメンタルでも堪える。 「カスカスカスって、それしか言えんのかい。美少女なら出て来なさい。結婚しましょう」  一人、屋上にて美声を上げると、ピュウと一陣の風が呼応するかのように過ぎ去った。詰まる所、何者も姿を見せやしなかった。 「もう少し、ここにいるか。やってられんわ」  陸に一報入れておこうと、ポッケから取り出した生温かいスマホであるが、そうえばギャルゲーに充電の全てを喰われたのだったと思い出しては後悔する。  まぁ、すっぽかしても構わんだろう。イケメンだし。次の授業には恐らく戻るだろうし。  チャイムが鳴り響く。そして、あの声も入り混じる。  ーールーカス 「んあ……?」  今までとは、違う。カスカスカスと罵倒されているものだとばかり思っていたが、そうでは無いようだ。確かに思い返してみれば、不自然に途切れた言葉だった。その不自然さが消え、ルーカスとはっきり萌えボイスちゃんは言ったのだ。  いや、ルーカスって何だよ、わけわからん。名前か何かか? 「俺はなぁ、南勇人っつー超絶カックイイイケメンネームがあんだよ」  一喝入れてやった。今の俺は絶対格好良い。  しかし、それに呼応したのは萌えボイスでもなく、風でもなかった。    リアリティの欠片もない、不気味にも神々しい光だった。次第に拡散し、遂には俺の全身を包み込むように襲いかかる。防衛本能が働き、目蓋が閉ざされ何も視認出来なくなってしまう。
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