第三章

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 彼はそうだろうが、一華は違う。  もしかしたら一生帰ってこないかもしれない。  そう思うと零の不安は一層かき立てられ居ても立ってもいられなくなった。  すぐにでも妹を零の目が届く範囲に置きたい。  零はかつての誘拐事件を想起する。  あの事件は単純だった。 『妹を帰して欲しくば、一人ビルの建築現場にやってこい』    学園の下駄箱に入れられてあったそのメッセージカードとともに、何の前準備も無く明記されてあった住所へ向い、妹を助けた。  だが奇妙な点が残ったのも確かだ。 〝ドット〟と〝ダブル〟で構成された組員はまるで零の実力を計測するように襲撃してきた。  大災害を引き起こした零を憎むのではなく、妹を攫ったのは戦闘を嫌う零に強制的に魔法を使うように仕向けていた節さえある。  それは実験動物を観察するような、成長を計測するような、実験データーを残すだけの戦闘だったと思う。  当時はそんな考え、全く無かった。  ただ一華を救う。  その一点が零の思考を支配していた。  とても他のことに注意を割く余裕など無かった。  だが今回は違う。  今回の誘拐事件は単純な問題じゃない。  複雑な事柄が含まれた事件だ。  様々な思惑が混じった事件だ。
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