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モダン白壁に金枠の絵画がかかり、床には大陸特産の絢爛な絨毯が敷き詰められる。
夢のように躍るシャンデリアの輝きをうっとりと見つめていたわたしは、ふかふかの羽毛上掛けを手繰り寄せて、暖かさに思わず頬を緩める。
手燭がゆらゆらとオレンジ色の明かりを暗がりの周囲に届けていく。
輪郭の端が赤く浮かび上がるだけの闇色に包まれる室内は、もうじき日付を越える。
「遅いなぁ……ジャクシル…」
幾度にも渡る体制の変遷からようやく落ち着きを取り戻してきたアスラーンは、今や国内外からの信頼を取り戻すことに成功し、連日、交渉の足が途絶えることがない。
一度憂き目に遭った経緯もあってか、ジャクシルは全ての交渉に顔を出し、案件を纏める作業をこなしている。
外交官らをもっと頼ればいいのに。
勿論それは国のため、強いてはわたしとの未来のためだって分かってる。
でも、たまには甘やかして欲しいのに……。
***
ついウトウトと眠ってしまっていたらしい。闇に小さな音が聴こえた気がして、わたしはぼんやりと目を開ける。
あ……戻ってきたんだ。
ベッドサイドのテーブルに置かれたワイングラスが、燭台のウォームカラーを浴びてゆらゆらと揺らめいている。
その奥に、逞しい上半身を夜気に晒すあの人の姿があった。
着替えの最中だったらしい、彼は壁付けのポールに掛けられているローブに手を伸ばし、色気のある褐色の肌に袖を通していく。
まだわたしが寝ているのだと思っているだろう。完全に無防備だった。
羽毛の上掛けをそろりとはずして、身をかがめ、息を殺して、わたしはベッドサイドに凭れた彼の首根に白い腕を回した。
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