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【最終話】
暁月は神社の周りで物の怪の姿のままうろつくのを嫌う。だから、慈英は真夜中でも戻ってくるときは人の姿になる。
男に意趣返ししてやった事がよかったのか。
綺麗に成仏したあの姑獲鳥の姿を瞳に焼き付けて、それで納得すべきだったのか、とも思う。
ただ、あの時の自分の気持ちは、どうしてもその男に意趣返しをしなければ、報われないような気がしていた。
でも、きっとそれは自分だけの自己満足に他ならなかったのだ。
どうしようもない虚しさに、酷く落ち込んだ気持ちで、慈英は家に戻ってきた。
「……何で起きてはるん?」
玄関を抜けると、何故か和室で暁月がこたつにあたっている。
普段は、夜の9時過ぎには寝てしまって、朝5時には起きる暁月が、こんな真夜中に起きているのは、年越しの時ぐらいだけだ。
しかも、なにやら机の上に広げてそれを食べている。
「なんや、帰ってきたんかい……」
暁月は、振り向きもせずにお茶を啜る。
なんとなく、その背中に誘われるように、慈英は向かい合わせにこたつに足を突っ込んだ。
「……何、食べてはるん?」
こたつの机の上には、紙で作られた大きなブーツと、そこからあふれるように零れ落ちる、子供が喜びそうな菓子がある。
「……慈英も食べよし……」
寝るときの寝巻に綿入り袢纏を羽織っている暁月から、慈英の広げた掌にチョコとアメが落とされる。
「クリスマスのお菓子? どないしたん、これ」
「……氏子さんにもろた……」
──お供えしてくれって、もう何がなんだかようわからんな。他所様の国の神様のお祝いのお菓子を、神社にお供えせぇっていうんやから……。
そう言いながら笑う暁月の顔はどこか楽しげだ。
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