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慈英は普段は普通の格好をして、耳もしっぽも生やしていない。ちゃんと人間に見えるように工夫しているのだ。だから、たまのこんなおふざけぐらいは許してやってもいいのかもしれない。
そんなことを思いながら暁月は、この魔物と動物の会話をどう思っているのかと、姑獲鳥の顔をちらりと見るが、その表情はまるで他人ごとのようだ。
どうも表情だけでなく、存在も、思いも。
……薄ぼんやりしている印象だ、と暁月は思う。
本来なら薄ぼんやりしている生き物は、化生には生まれ変われない。この世にひどく執着していなければ、魔物には成れないのだ。
なのに何故、この女は地縛霊などではなく、物の怪になったのか。
単なる霊ですら、強い執着や思いがなければ、この世に残ることが出来ない。
通常もっと長い間、現世に残り続ける物の怪となれば、もっと……激しく深い執着や思いがあるはずなのに……と。
「え? そうなの? じゃあ、もうちょっと調べてみるね」
どうやら慈英と猫の会話は終わったらしい。暁月が慈英を視線を合わせると、
「なんや、多分数ヶ月単位ぐらいで徐々にこっちに移動してきたんやないかって……」
慈英の言葉は、東京の生活が長くなるにつれて、こちらの人間や動物と話すときは、暁月と同じ京の言葉から、こちらの地域の言葉になりつつある。
「移動してきてはるん?」
思わず暁月がそう聞き返すと、コクリと慈英が頷く。
「やとしたら、元々居てはった場所があるってことやろ?」
「うん、多分そういうことやろねえ」
慈英はバイバイと、その情報をくれた猫に手を振りながら答えた。
「……せやったら……」
もう一度袂から暁月は依代を出し、術式を唱える。現れた式神たちに、
「この姑獲鳥の匂いのする場所を探して来て欲しいんやけど」
声をかけると、口々に、『承知しました!』と応え、姑獲鳥の周りをグルグルと回って、その匂いというか存在の色合いを確認してから式神たちは四散していく。
さてと、と暁月は改めて姑獲鳥を振り返りその顔を見つめる。
相変わらず、心ここにあらずの表情だ。
そして、慈英はその姑獲鳥の背後に、気遣わしげに立っている。
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