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「ここに見覚えはあらへんの?」
深々と冷え込む夜気に一瞬身を震わせて、尋ねると、ビルの上まで視線を投げかける暁月の視線を追うように、ビルのてっぺんまで見上げてから、一瞬思案するような顔をして、姑獲鳥が首をかしげる。
姑獲鳥がするお約束の仕草、膨れた腹に触れて、そっと指先で撫ぜている。
「……この子が……」
ぽつり、とつぶやいた言葉に、本人がびっくりしたように、自分の指先に視線を落とす。
「そのお腹の中の子供?」
姑獲鳥がどんな風に発生してくるかは知らない。
ただ、妊婦の妖怪で、胎児の事をひどく気に病んでいるのであろうことは、その姿から想像に難くない。
「……あれ? 何でしょう。よくわかりません……」
開きかけた扉は一瞬で閉じ、しかし、先ほどまでのどこか茫洋とした様子が、少しだけ崩れてきた気がして、暁月はなおも彼女に色々と尋ねた。
「その子の父親は誰や?」
「……なんで産まないままそないな姿になったんや?」
「ココの場所は誰かに関係ある場所なんやないか?」
立て続けの質問に、姑獲鳥の表情がこわばった。
「ちょ……兄者、怖がってるやんか」
咄嗟に慈英がその真っ赤なサンタ衣装の背中に姑獲鳥をかばう。
「せやかて、そのまま強制的に成仏させるわけにもいかへんやろ?」
そんなことをしたら、慈英は絶対怒り狂う。そうわかっているからこそ、こんなまどろっこしい方法をとっているのだ、と言わんばかりの暁月の言葉に、
「いや、そもそも成仏させて欲しいなんて言うてへんし」
一瞬キラリと光る剣呑な瞳でコチラを睨む。
「……そのままやったら、ベテランの姑獲鳥はんになるで、その子」
どこか面白そうに瞳を瞬かせて、暁月は慈英に笑いかけると、
「う……」
思わず慈英が言葉をなくす。
「……あの。多分、私どうしてもクリスマスに、ここに来なきゃ行けなかった気がするんです……」
そう、お腹をさすりながら言葉を続けた。
「それは、どうして?」
そっと姑獲鳥の肩を抱くようにして、慈英がその青白い相貌を覗きこむ。
「暁月さま……」
その時、暁月のもとに飛び込んで来たのは先ほど放った式神の一人だ。
「その姑獲鳥の気配が濃く残っている場所を見つけました」
ふわふわと、宙を浮く式神の後を追って、暁月は慈英達を呼び寄せ、後をついていく。
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