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 式神に案内されてついたのは、歩いて30分近く離れた、隣の駅の近くのビルだった。クリスマスイブとあって、歩く先々には、イルミネーションに飾られた建物や樹木があって、キラキラと華やかな光を放っている。  そんな景色とは正反対に、歩いていくうちに、姑獲鳥の足取りはどんどん重くなり、表情もどんどん優れなくなり、多分この先にに待ち構えているものに怯えているような仕草をみせていた。  酷く狼狽している様子の姑獲鳥を、慈英はなだめすかしながら、遂にその目的地まで連れてきたのだ。 「ここです……」  式神が暁月の耳元で囁いたその場所には、商用ビルが立っていた。  見上げた先には印象的なケバケバしいネオンサインのついた広告塔が屋上に見える。荒れた感じでお世辞にも綺麗な建物、とはいえない。  ビルの入り口に書かれた少し特徴のあるそのビルの名前を見た瞬間、 「あ、ここは……」  思わず思い出して、暁月は声を上げた。  ──その瞬間。 「ぎゃああああああああああああ……」  鳥の断末魔のような叫び鳴く声が聞こえた。 「大丈夫や、大丈夫やからっ」  必死に狂ったように叫ぶ姑獲鳥を慈英は抱きしめている。 「……」  暁月は先程まで大人しくついてきていた姑獲鳥の急変に、思わず言葉を失った。  そして、先ほど自分が思い出した記憶がその姑獲鳥の変容に関係しているのだろうということも確信していた。    叫び続けていた姑獲鳥の声に、通りかかる人々の中で、霊的に敏感なものは、 見えない、聞こえないなりに気配を感じ取って、気分が悪そうな顔をして通り過ぎて行く。  それでも、その姿を見れるのは、自分と慈英しか居ないのだと、暁月は、小さな嘆息をついて、その切なさ、虚しさに微かに胸を痛めた。 「……あんたは、ここで飛び降り自殺したんやな……」  小さなつぶやきを漏らした暁月が思い出したのは、9ヶ月ほど前に新聞に載っていた記事だ。 「ここで飛び下り自殺しはったのと違う?」  ようやく落ち着いた姑獲鳥に向かって、淡々と言葉を投げかける。姑獲鳥はその青白い相貌をゆっくりと持ち上げて、彼女は答えた。 「自殺なんて……私、していません」  じっと彼女が見つめる先には、ビルの屋上のネオンサインが輝く。
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