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「……思い出しはったん?」
そう尋ねる暁月に、姑獲鳥は小さくうなづいた。
「どないしたんや、何があったんや?」
心配げに慈英が姑獲鳥の顔を覗き込む。
人通りが少ないとはいえ、駅前だ。
真っ赤なサンタの衣装に狐の耳と尻尾をつけた慈英は、相当に目立っているが、今日がクリスマスイブだから、多少酔狂だとしても、通りすがりの人間たちもあまり気にはしていない。
それよりも自分の方が問題だ、と暁月は今更ながら気づく。
うっかり狩衣のまま神社を飛び出してきた暁月はどう見ても、クリスマス向けの変装にも見えず、まわりを通る人間はこっそりと首を傾げたり、カップルなどはくすくすと笑う始末。
そして他の人間から見て見えないはずの姑獲鳥と会話をしているのは、さらにおかしな人間にしか見えていないはずだ。だから、
「屋上、上がってみてもいいですか?」
彼女の言葉に、少しだけほっとして、三人して彼女に連れられるまま屋上へと登ったのだった。
少しわかりにくいところにある非常階段を使って、出口につけられたナンバー式の南京錠を開けて、彼女が屋上に暁月たちを連れてくる。
「……さむっ……」
思わず暁月は声を上げた。
扉を開けた瞬間に一気に冷たい風が流れ込んでくる。
その代り空は冷たい風のおかげで、氷のように澄み渡っている。星は降ってきそうなほど冷ややかな輝きを増している。
姑獲鳥はペタンと床に座り込み、寒空をじっと見上げている。
その表情は酷く悲しいような、苦しげなような、それでいて強い意志を感じさせるものに変わっていた。
「……それであんさんは自殺しはったんやない、と?」
気になっていたことを暁月は尋ねた。
冷たい屋上のコンクリートの床に指先を伸ばし、ゆっくりと姑獲鳥は立ち上がる。
緩やかな足取りで、屋上の縁まで歩いていき、視線を足もとに落とす。
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