123人が本棚に入れています
本棚に追加
「だって……私、子供がおなかにいたんですよ?」
羽のある方の手も使い両方の手のひらで、そっと丸い腹部を撫でつけるようにする。
「私が自殺したら、この子まで死んじゃうじゃないですか」
「せやったら……なんで、ここから落ちて死んでたん?」
慈英が震えるような声で尋ねる。
彼女の後を追って、縁から下を見下ろして、ぶるっと身を震わせる。まあ、慈英なら落ちたところで、危険の一つもないのだが、やはり人として生きていたころの感覚というのは、その身の内に残っているのかもしれない。
「……突き落とされたんです。──子どもの父親に……」
ぽろり、と姑獲鳥が一つ涙をこぼす。
慈英はその涙のしずくが、頬を伝い冷たいコンクリートにしみこんでいくまで、じっとそれを見つめていた。
「以前友達だった頃、無理やり襲われて。それでも、結婚したいくらい好きだってその人に言われたから……」
だから、そんな風にした人だけど、自分のことが好きだからというし、たった一度きりの関係で、子供が出来たとき、それでもちゃんと父親になる男に伝えるべきだと思って……。
最初のコメントを投稿しよう!