【5】

1/3
前へ
/27ページ
次へ

【5】

 姑獲鳥が今にも落ちていきそうなほど、ギリギリの縁で下界を見つめている。下からの冷たい風が、彼女の長い髪をふわりと持ち上げた。  その姿をみながら、暁月も思い出していた。  新聞には単なる若者の飛び降り自殺として載っていた。そのあと付き合いのある氏子から『未婚で子供を妊娠したことによる将来を悲観しての発作的な自殺』だったらしいと、噂話を聞いた程度だ。  生真面目な学生の自殺。父親らしき人物も分ってないという。 「12月25日が出産予定日でした」  どうしても、生んであげたかったんです。なのに、私は殺されてしまって、子どもも一緒に殺されてしまって……。  姑獲鳥はさめざめと涙をこぼす。  先ほどまでの意思を捨てた表情ではなく、ぎちぎちと唇をかみしめ、爪を自らの手のひら食い込ませ、双方から血をにじませている。 「せっかくあいつの住んでいるところまでたどり着いたのにっ」 「あいつを許せない……」 「私から子供の命を奪ったあいつを許せない……」 「自分の欲望のままに、女の体を奪って、子供を孕ませて、その子供ごと女を殺して!」 「私達よりもっと深い深い闇に貶してやる。二度と這い上がれない、昏い昏い闇の底に……」  呟くような言葉は、恨みつらみ、呪詛の言葉だ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加