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 ゆらり、と姑獲鳥の体から怨念の昏い炎が燃え上がるのを暁月は感じた。ずいぶん、姑獲鳥らしくなっているやないか、とぽつりと言葉をこぼすと、 「……あかん。これ以上恨んでしもたら、君は本当の姑獲鳥になってまう……」  ぎゅっと慈英が姑獲鳥を抱きしめる。  ぽろぽろと泣きながら、なおも呪詛の言葉を吐き、昏い空虚な瞳を宙に向ける姑獲鳥を見て、はぁっと暁月はため息をつく。 「……このまま姑獲鳥にならはって、その男を呪い殺してもええけど」  暁月は笏を袂からだし、ゆっくりと姑獲鳥の腹をなぜる。  一瞬びっくりしたように視線を暁月に向ける姑獲鳥に、 「このまま姑獲鳥にならはったら、その腹の子も成仏できないままの、『いつまでたっても生まれることのできない物の怪』になってまうけど、ええんやろか?」  その言葉にピクリ、と肩を震わせて、慈英に抱きかかえられていた姑獲鳥は視線をまっすぐ暁月を捉える。 「なあ、慈英。その腹の子と一緒に姑獲鳥もちゃんと成仏させてあげた方がええと思わへん?」  その言葉に一瞬、慈英が、うっと言葉に詰まる。 「……やっぱりその方がええかな……」  また捨て猫みたいな目でこっちを見はるし……と、うんざりしたように暁月はこっそりとため息をつく。 「あんたは、自分のその恨みつらみの気持ちを全うさせることと、その子をちゃんと成仏させて、もう一度輪廻の流れに戻してやるのとどっちがええと思う?」  じっと姑獲鳥の瞳を覗き込むと、姑獲鳥は睫毛の揺れがわかるほどゆっくりと瞳を閉じる。そっと指先でその膨らんだ腹部を撫ぜる。 「もう一度この子は、この世に生まれてくることが出来ますか?」  再び開いた瞳は、先ほどまでの昏い炎の揺らぎが微かに残っているけれど、ゆっくりと、暁月は肯定するようにうなづく。 「それが自然の流れであれば……」  その言葉にもう一度姑獲鳥は瞳を閉じて、目じりから一粒涙をこぼす。
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