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【6】
「狩衣でこんなところにおったら体調崩すわ」
思わず、自らの体を抱くようにして、
「……さっさと帰るで」
ちっとも寒さに震えていない物の怪に声を掛ける。
「……ここでさ、綺麗に終われたらええんやろうけど……」
ぽつりと、慈英は言い返した。
「……なんや?」
眉をひそめて、暁月はじっとそのピクリと尖る狐の耳を見つめる。
「やっぱ、俺、物の怪やし。きっちりやり返さないと気が済まないんやよね」
にっこりと見慣れた金色の瞳を細めて笑う表情は、人のそれとは少しだけ違う光を宿している。
「暁月、先に帰っててくれる?」
慈英はそう言いながら暁月の背中を押しだす。
「なんや……呪い殺したりしたら……」
思わずそう言い返すと。
「殺しはせえへんよ。せやけど、因果応報は自らの身で引き受けてもらわへんとね」
剣呑な獣の笑みを浮かべると、慈英は暁月に背を向けた。
「殺す? そんな素敵な逃げ道に逃がしてあげるわけ無いやん……」
聞こえないほど小さな声でつぶやくと、
──次の瞬間、姿を消した。
「慈……」
名前を呼びかけて、暁月は一瞬その消えた姿に手を伸ばそうとする。
それから、そっと空を見上げて……深い、深いため息をついた。
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