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「さて……と」
兄をビルの屋上に置き去りにして、自らを霊体に戻し、クリスマスイブの空を舞う。
まずは……ベテランの姑獲鳥でも探そうか。
一瞬見上げた空は、先ほどあの姑獲鳥……
いやもう、聖母になったのかな、その微かな気配すら残っていない。やっぱり、最後の彼女の微笑みは、綺麗だったな。きっと生きていた頃も綺麗で、可愛かったんだろうと。
なんとなく、彼女が綺麗に消えちゃったから、それで全てが終わったみたいに思えちゃうけど、実際は、彼女をムリヤリ犯して孕ませて殺した……その男は、この聖夜に、どこかに好き勝手に生きている。
暁月も忘れていたのか、忘れているふりをしたのか。
……彼女が言ってた。彼女と最初にあったあのマンションには「その男がいる」。
あのマンションに行き、彼女の気配さえ探せば、その男は簡単に見つかるだろう。
仮にも化生なりかけるほど、一人の運命を翻弄した因果応報は、きっちりとその身で受けてもらおう。
慈英はにぃっと口角を上げて笑みを浮かべる。
血が滴るよな真っ赤な舌先が、真っ白な獣じみた先の尖った歯列の間から覗く。
それは兄の前で出すことを慎んでいる、けれど、千年という長い間に人よりずっと物の怪の割合が増えているそんな自分の本性をさらけ出した笑みだ。
「さてと。どこに姑獲鳥はいるかな?」
魔性のモノに言葉を掛ければ、姑獲鳥の一人ぐらいは簡単に見つかる。そしてほどなく見つかった姑獲鳥は……。
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