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「うわちゃ~……」
キャリアのある姑獲鳥はさっきの彼女とは全然違う。まあ、どっちかというと彼女が特殊だっただけだけど。有り体に言えば……ベテランは、そんな声が漏れるくらいパンチのある風貌だ。
衣装も、腰のあたりには産褥のどす黒い血に覆われていて、表情も、すでに人だか鳥だかわからない。
恨みがましい瞳と、人を食ったような真っ赤な唇。
……彼女、こうなる前に向こうに帰ってよかったのかも。と今更ながら、暁月の判断を支持する。
「というわけで、胎児殺しの男を、トコトン怖がらせて欲しいんだけど……」
俺の言葉に、姑獲鳥はニタリと悦びの笑みを浮かべる。それはまさしく姑獲鳥には最上の獲物だ。
余計なことは話さずに、姑獲鳥はゆっくりとその膨らんだ腹を撫ぜて、慈英の後をついてくる。
既に時刻は夜中二時になる頃だ。流石にクリスマスイブの夜も、辺りはかなり静まり返っている。
先ほど彼女に出会ったマンションに行くと、彼女の気配を多く残しているのはどの部屋かすぐわかる。男に近づけばもっと気配が深まるだろう。
その思惑通り、彼女の気配が吸い寄せるように、その男の枕元に誘う。
「……起きろ……」
枕に頭を落とし、人を二人殺した男は、自堕落に惰眠を貪っている。
「起きろ……」
ゆらゆらと揺り起こされて、男が目を覚ますと、そこには、全身血塗られた服を身につけた、腹の大きな女が立っている……。
「この子を抱いてください……」
何が起こったのか理解のできない男の腕に、姑獲鳥はムリヤリ真っ赤な血にまみれて、ぬらぬらと赤子のように見える禍々しいものを押し付ける。
「な……な…………」
言葉が出ないまま、ガタガタと震える男に、
「……それを取り落とせば、お前はその瞬間に死ぬぞ」
妖狐の姿に戻ったままの慈英が獰猛な笑みを浮かべる。
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