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「……なんで、私を殺したの? ……なんでこの子まで殺したの?」
姑獲鳥が必死に男に縋りつく。
振り払いたくても、逃げたくても、手の中の胎児はどんどんと重みを増していく。
「嫌だというのに、なんで私を手篭めにしたの? 妻にするつもりだったと言ったのに、なんで私を殺したの?」
攻め立てながらも、姑獲鳥はにぃぃと真っ赤な唇を笑みの形にする。
「重い……なんだこれ……」
どんどんと重みを増す赤子を抱いて、男は必死に自分の逃げ場所を求めて、視線をアチラコチラに彷徨わせる。
その視線の先の全てに、魑魅魍魎が自分を取り囲んでいることに気付き、脂汗を流しながら、それでも必死で生に縋りつくように、不気味な胎児を取り落とせずにいる。
「……ねえ、答えてよ」
ニタリ、と胎児が笑みを浮かべて、男に尋ねる。
「ぎゃああああああああああああああ……」
次の瞬間、男は膝から崩れ落ち、それでも必死にその膝に、おどろおどろしい子供を抱いている。
「……僕とお母さんを殺したのに、自分だけは死にたくないんだ……」
ニタリと、抱かれた子供が男の顔を覗き込む。とっさに取り落としそうになり、
「落としたら死ぬぞ?」
慈英の言葉に、再び必死に赤子を抱え込む。
「……ねえ、私をどうして殺したの? なんでお前は一人で罪も償わずに、のうのうとここで幸せに暮らしているの?」
縋りつくように、姑獲鳥が子供の重みで逃げられない男の体を血塗られた腕で抱き寄せる。
「……たす……けてくれっ」
ひぃぃぃぃと悲鳴を上げながら、涙と鼻水を垂れ流し、失禁をし、たまらなく醜悪な姿を晒す。
「……謝るぅぅぅぅ、許してくれぇぇぇえ! ちゃんと自首する。罪を償う……だから……殺さないでくれっ」
ガタガタと震える男は嫌な匂いが漂ってきそうなほど汚い。慈英はその姿に吐き気が湧いてきて仕方ない。
「黙れっ! この腐れ外道が!!」
慈英の全身から思わず怒気が全身から吹き出す。
「ひぃぃぃぃぃ」
身体のどこからか絞りだすような声を上げ、男は慈英の怒りの気配だけであっさりと意識を失った。
慈英はその汚らしい男を蔑む様に一瞥し、ふわり、とその部屋から外に飛び立った。
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