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「……で。気ぃすんだんか?」
ポツリとつぶやかれた言葉に、なにも言わずに慈英は菓子を噛みしめる。答える代わりに零れた言葉は。
「……元々八百万の神の国やった癖に、まるごと仏教を受け入れてもうて、八百万の神様までそこにそのまま組み込んでしもた国やからね。まあ何でもありなんやない? 必要があればキリスト教でも、イスラム教でも、ヒンズー教でも、それなりに受け入れて食い散らかしはるんやよ、この国は」
そう言いながら、言葉通り目の前の菓子を食い散らかしていく。
「それでも俺みたいなのはこの国におるし、あんたみたいなのも居るんだよ……」
くすりとどこかおかしそうに慈英は笑って、
「何が正しいとか、何が間違っているとか、そんなん千年生きたってわからへんけどね」
そう言うと慈英は宙を見つめる仕草をする。
「でもまあ……一つ言えることは、ベテランの姑獲鳥さんは凄腕やってことで……」
ぶつぶつ言う慈英の言葉に、何言うてはるんか全然わからへんわ、と暁月は肩を竦めて。
「まあ、ベテランの姑獲鳥なら、ええ仕事しはるんちゃう?」
あくびをしながら、寝る。と一言だけ言って、暁月はこたつから立ち上がる。
慈英は机の上にばらまかれた菓子を一つとっては口に入れ、ゆっくりと咀嚼して飲み込む。
甘くて安いその味は、なんだか少しだけ懐かしくて。
「あの姑獲鳥、今度は人になって生まれてくるんやろか……」
どうして必死にあの姑獲鳥にかまってしまったのか。それは千年も前に確かに居たはずの、自分と兄の母親を思い出させたのかもしれない。
慈英はサンタの帽子を脱いで、ゴロンとそのまま横になり、手を伸ばしてはお菓子を食べて、ビターチョコより少しだけ、ほろ苦いクリスマス・イブの夜は更けていく。
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