【最終話】

2/3
前へ
/27ページ
次へ
「……で。気ぃすんだんか?」  ポツリとつぶやかれた言葉に、なにも言わずに慈英は菓子を噛みしめる。答える代わりに零れた言葉は。 「……元々八百万の神の国やった癖に、まるごと仏教を受け入れてもうて、八百万の神様までそこにそのまま組み込んでしもた国やからね。まあ何でもありなんやない? 必要があればキリスト教でも、イスラム教でも、ヒンズー教でも、それなりに受け入れて食い散らかしはるんやよ、この国は」  そう言いながら、言葉通り目の前の菓子を食い散らかしていく。 「それでも俺みたいなのはこの国におるし、あんたみたいなのも居るんだよ……」 くすりとどこかおかしそうに慈英は笑って、 「何が正しいとか、何が間違っているとか、そんなん千年生きたってわからへんけどね」  そう言うと慈英は宙を見つめる仕草をする。 「でもまあ……一つ言えることは、ベテランの姑獲鳥さんは凄腕やってことで……」  ぶつぶつ言う慈英の言葉に、何言うてはるんか全然わからへんわ、と暁月は肩を竦めて。 「まあ、ベテランの姑獲鳥なら、ええ仕事しはるんちゃう?」  あくびをしながら、寝る。と一言だけ言って、暁月はこたつから立ち上がる。  慈英は机の上にばらまかれた菓子を一つとっては口に入れ、ゆっくりと咀嚼して飲み込む。  甘くて安いその味は、なんだか少しだけ懐かしくて。 「あの姑獲鳥、今度は人になって生まれてくるんやろか……」  どうして必死にあの姑獲鳥にかまってしまったのか。それは千年も前に確かに居たはずの、自分と兄の母親を思い出させたのかもしれない。  慈英はサンタの帽子を脱いで、ゴロンとそのまま横になり、手を伸ばしてはお菓子を食べて、ビターチョコより少しだけ、ほろ苦いクリスマス・イブの夜は更けていく。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加