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【2】
ご馳走様、と呟いて、暁月が食べた皿を持って台所に向かおうとした瞬間。
「暁月ぅぅぅぅ……」
情けない声が、忍び込む夜気と共に、玄関から聞こえる。その声を聞いた瞬間に、ピキっと暁月の額の上が緊張で千切れそうになった。
「……今度はなんやっ」
思わず暁月の声に、
「こっちまで来てや……」
玄関の向こうから情けなさそうな声が答える。
「……ほんまに、なんなんや……」
そう言いつつも、慈英がこういう言い方をする場合、その答えは碌でもないものに決まっているのだ。
「そのまま外に出て、自分でなんとでもしはったらええやろ」
そう言いながらも暁月は、食事をしていた部屋の扉を開けて、玄関の扉から覗きこむ慈英を睨みつけた。
「暁月~。ごめん、ごめんてばっ……助けてぇ~な……」
情けない顔をする狐耳の向こうに……イヤになるほどの数の化生の姿が見える。
暁月は深い、深い溜息をついて、
「そこでしばらくじぃっとしとき。 絶対にそこからコッチに入ったら承知せぇへんで!!!」
ブチッと切れた理性のまま言い捨てると、慌てて食事を取る直前まで着ていた狩衣を羽織り、木笏を持つ。袍は……この際かぶらないでもいいだろう。
というかコイツはなんでこういつだって厄介事を持ち込むのか……。誰にともなく、文句を言いたいような気分になりながら、暁月はカツカツカツと音を立てるほどの勢いで玄関に向かい、玄関の入口で大人しく待っている百鬼夜行をそのまま背負ったみたいな慈英を睨みつけた。
穏やかな夜の時間を邪魔されて、不機嫌な気分をぶつけるようにバシャンと音を立てて、横開きの玄関を開け放つと、暁月の目前で、ますますはっきりするのはその惨状だった。
「……どっから連れて来はったん? その百鬼夜行」
一体何体の妖怪を連れ帰って来ているのか。
数える気すら起こらず、暁月の唇から零れ落ちるのは、ただただ、ため息ばかりだ。
「境内まで引っ張り込んだのなら、始末つけんとあかんことは、慈英、あんた、よう知ってはるよな?」
目の前で困ったような中途半端な笑い顔をして、なんとか状況をごまかそうとしている半人半狐の男を暁月は、ぎぃぃぃぃっと音がするほど、睨みつけながら、狩衣から形代をまとめて引っ張りだし、呪術を唱える。
すると先ほど同様に、慈英の姿を象ったミニチュアたちが二十体ほど飛び出てきた。
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