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「……なんであんたは、そう次々と妖怪をひらってくるんや」
呆れるように吐き捨てながらも、それなりの理由がなければ、この女も姑獲鳥になんぞなるまい。対してこの世に執着もしてなさそうな、霊力の弱いこの姑獲鳥程度なら、かんたんに処理できる。
──が。強制的に向こうに送るのでは慈英が納得しない。ヘタすれば荒れ狂うだろう。
一応、慈英の身体の中で大人しくしているとはいえ、もう一方の……人格? 化格……ああもういい。とにかく、中身は千年クラスの妖怪だ。
慈英と妖狐の心のバランスはいつも均衡している。
だからコイツらの機嫌を損ね、精神のバランスを崩すと、色んな意味で、この東京が……いや、日本が……。
──ヘタすると地球全体が危ない。
暁月はもう既に数えきれないほどついた深い深い嘆息を漏らし、
「……どないな仔細で姑獲鳥なんぞに、ならはったん?」
慈英に隠れるようにしている姑獲鳥に声を掛けた。
普通姑獲鳥は、腹に子供を身ごもった女の妖怪だ。子供を授かったのに、仔細があってその子を産み落とすことが出来なかった時に、その悲しみが形になり生まれるものだと言われている。
「……よくわからないんです……気づいたらここにいて」
困ったように女は俺と慈英の顔を代わる代わる見上げる。服装は……今どきの女性のモノに近い。姑獲鳥になってそう何年も経っているようには見えない。
「姑獲鳥になってしもた仔細は覚えてはらへんのやな……」
もうここまで来てしまったら一緒かと、神殿と一番離れた住居の濡れ縁に腰を掛ける。
思った以上に冬の夜気に冷えきった濡れ縁に思わず暁月は眉をしかめた。
「こん人はどこでどないにしてはったん?」
最初の怒りが収まると、ある種職業的な関心が湧いてくる。どこか、ぼんやりとこちらを見つめる彼女を片目に見つつ、慈英に尋ねると、
「うん、駅に行く途中のビルの近くにいたんやけど。でも、多分前はおらんかった、と思うんやけどなあ……」
慈英は兄の顔を見て確認するようにもう一度頷く。だとすると、と暁月は一瞬思案する。
「とりあえず、こうして考えておっても、埒が明かへんな。ちょっとそのビルのところまで行ってみるか……」
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