不思議な魅力をもつ人

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ある日、あかりがいつも日向ぼっこをしている場所であかりの姿を探していると、ベンチから少し離れた木の下であかりが携帯で誰かに電話をしていた。 私が近づくと、あかりは電話をしながらこっちを見て微笑んでくれた。 思わず顔がほころぶ。 「……はい、ご迷惑をおかけするとは思いますが、よろしくお願いします。」 そう言うと、あかりは電話を切った。 「何か問題事ですか?」 私がそう聞くと、あかりはくすっと笑う。 「違います。今夜、女子大時代の友達と食事をするから少し帰りが遅くなるって、母親に電話していたんです。」 あかりのその言葉に私は驚く。 「でも今、敬語で話してましたよね?一之宮先生は親と話すとき、敬語で話すんですか?」 「えっ?変ですか?…だって親は私より歳上じゃないですか……」 「…ははっ、確かに!」 当たり前のことのように答えるあかりが面白くてつい笑ってしまう。 自分より歳上だから、たとえ親でも敬語で話す。 あかりにとってはそれが常識なんだ……。 2人でベンチに座って日向ぼっこをする。 「そういえば、一之宮先生の携帯の着信音って何ですか?好きな曲とか…。」 あかりは日の光を浴びながら、目を細めて答える。 「無音ですよ。」 「え?」 「無音です。」 …さすがにそれは…… 「それじゃあ、着信がきたときに気づかないじゃないですか?」 「そうですね、気づかないです。」 だから教頭先生が言ってたんだ。 あかりに電話してもなかなか繋がらないって…… しかし、何で無音…? 私がそう考えていると、私の考えを見透かしたようにあかりは答える。 「携帯の音って人間の耳に入りやすいように聞こえやすい音で作られているんです。」 「でも私にはそれがうるさく感じてしまって……。だから無音にしています。」 「一之宮先生、余計なお世話かもしれませんが、せめて音は鳴るようにしておきましょう。学校での緊急連絡だってあるかもしれませんし。」 私がそう言うと、あかりは素直にコクンと頷いた。 こういう時、あかりがたまらなく可愛らしく見える。
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