君に恋をする

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「題名『私が大人になったと思った瞬間』3ーC副担任、一之宮あかり。」 生徒たちがポカンとしている中、あかりは生徒ににっこり笑いかけると話を始めた。 「私が皆さんと同じ高校3年の頃、学校の帰り際に、小学生の子供たちの集団を見かけたんです。」 「その子供たちは輪になって何かを取り囲んで、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいました。」 「『何だろう?』私はそう思ってその輪の中を覗いてみました。」 生徒たちがごくっと生唾を飲む。 「輪の中の中心にはピョンピョンと動くトカゲの尻尾がありました。」 「なあんだ、もっとすごいものかと思った!」 生徒たちが残念がる。 「くすっ、私もね、その時そう思ったんです。『なあんだ、トカゲの尻尾か…』って」 「でも、そんなトカゲの尻尾を子供たちはキラキラした顔で楽しそうに見ながらはしゃいでいるんです。」 「その様子を見て私は思いました。『ああ、私は大人になっちゃったんだ』って…」 「先生、どういう意味ですか?」 「うん、子供の頃の自分を思い出してみたの。私も子供の頃は、その小学生たちみたいに、トカゲの尻尾を見てわくわくしたりドキドキしたりしてたなって。」 「雨の日にかたつむりを見てはしゃいだり、夏にはとんぼに夢中になって追いかけたりね。」 「毎日、楽しい発見があって…だから一年が今よりもずっとずっと長く感じた。」 「でも、今は知ってることがたくさん増えて、毎日何かに感動したりすることが少なくなってきてしまった。」 「トカゲの尻尾やかたつむりやとんぼを見ても『ああ、トカゲの尻尾ね…』『へえ、かたつむりか…』『ふうん、とんぼ…』って、そういう風に淡白に感じるようになっちゃった。」 「だから、私はトカゲの尻尾を見て『なあんだ』と思ったとき、私は自分が大人になってしまったって感じたの……」 「それが、私が作った大人と子供の基準の違いを表した『トカゲの尻尾論』」 大人と子供の境界を『トカゲ尻尾論』と呼ぶあかりの顔は子供のような顔をしていた。
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