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私は下を向いてあかりに尋ねる。
「…どんな人なんですか?…いい人なんですか…?」
「……たぶん…」
「たぶんって!?」
あかりの曖昧な答えにいてもたってもいられず、あかりの方を見ると、あかりは優しく私を見つめていた。
「…………」
あかりの穏やかな顔を見ると何も言えなくなる。
「塩谷先生は私が心臓が弱いって知ってますよね…?」
「……はい」
「心臓の状態、ここ数年あまりかんばしくなくて…その上、体も弱いのでこの前お医者様に『子供を産むことは諦めるように』と言われました。」
「…………」
知らなかった…
あかりの体はそんなに悪いのか…?
「そのことを婚約者の方に正直に話したんです。そしたら『それでもいい』って言ってくれたんです。」
「だからその人と結婚することに決めたんです。」
……あかりがそう決めたのならいいのかもしれない…
私が口出しするような問題ではない
「一之宮先生はそれで幸せですか?」
私が手の拳を握りしめてあかりにそう聞くと、あかりは笑って答える。
「幸せかどうかは分かりませんけど、恵まれているとは思います。…こんな体の悪い私を必要としてくれる人がいるんですから」
「恵まれていることが幸せとは限りませんよ…」
「えっ…?」
私が言った言葉に一瞬あかりの顔色が変わる。
「……塩谷先生って本当にいい人ですよね……。私、よく周りの人から変わっているって言われているのに変な目で見ないでみんなと同じように扱ってくれる……」
「塩谷先生と一緒にになる女性は幸せでしょうね。」
少し俯いてそう言うあかりがなぜか今にも消えてしまいそうに儚げに見えた。
もうあかりの想いに蓋をしよう……
初めて愛した人には婚約者がいたんだ…仕方がない……
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