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「家族に恩は返さないと…それにもう決まったことなのでどうすることもできません。」
「…そうですよね……」
「……塩谷先生、私、ものすごく我が儘なこと言ってもいいですか?」
あかりは私の顔を見上げる。
「私が結婚するその日まで、塩谷先生と普通の恋人のように過ごしたいです。」
「最後にあなたといい思い出を作りたい……。できるだけ一緒にいたいです。」
私はあかりを抱き寄せて、あかりのまぶたにキスを落とす。
女の人にこんなことをしたのは生まれて初めてだ。
「私が一緒にいてもいいんですか?」
あかりは甘えるように、私の肩にもたれ掛かる。
「私が塩谷先生に側にいてもらいたいんです。」
幸せだと思った。
お互い一緒になれなくても、あかりとの少しだけの思い出があれば、それがこれからの私の人生の支えになると思えた。
「あっ…電車が来た…。じゃあ、私はこれで……」
あかりは私に笑いかけると電車に乗る。
私はあかりの瞳を見つめたまま、動き出す電車を見送った。
******
電車の中で塩谷先生のことを思い出す。
思わず顔がほころぶ。
よかった……
リウマチとか変な病気だと思ってたけど、恋の病っていうものだったのね……
塩谷先生に抱きしめられたとき、温泉に浸かっているみたいに体があったかくなった。
私のこと、好きって言ってくれて……
愛してるって言ってくれて
嬉しすぎて舞い上がりそう……
……少しだけ…好きな人と少しだけ…一緒にいるくらいいいよね……
塩谷先生の側で、彼と何か2人の思い出を作りたい…
明日心臓が止まって死んだとしても後悔しないように……
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