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「一之宮先生、先生はペットボトルの飲み物が苦手なんですか?」
あかりは私の方を見ると、ぽわんとした顔で笑う。
「いえ、好きですよ。……でも今は飲めないんです。」
「今は飲めないとは?」
あかりは少しぼっーと考えると、ペットボトルのアイスティーを手に取った。
「見ててください。」
…びりっ!!
「えっ!?」
あかりがペットボトルの蓋を開けようと手に力を込めたその瞬間、彼女の手のひらの皮が思いっきり破けた。
「昔から手のひらの皮が異常に薄くて……ペットボトルの蓋を開けようとするとこうなってしまうんです。」
皮が破けた手のひらをを見せて、困った顔でふふっと笑っているあかりに驚いて、私は思わず椅子から立ち上がった。
「何してるんですか!?手のひらの皮が破けて痛いでしょう!!笑っている場合じゃないですよ!!」
「へ?」
あかりはキョトンとした顔をしていた。
「塩谷先生、大丈夫ですよ。慣れてますから。皮が薄い分、すぐに新しく薄い皮が出てくるんです。」
「でもさすがに毎回、ペットボトルの蓋を開けるたびに手のひらの皮を破くわけにはいかないので、家に持ち帰って家政婦さんに蓋を開けてもらったり、あげたりしてるんです。」
……今時、ペットボトルの蓋を開けられない人がいるなんて理解できない……
「でも、口で言ってくれればわざわざ手のひらの皮を破かずに済んだのに、どうしてそんな自分の体を傷つけるようなことをしたんですか?」
「だって実際見た方が分かりやすいでしょう?百聞は一見に如かずです!」
「…………」
満足げににこにこしているあかりの姿に、私は思わず魅入ってしまった。
「でもさすがにこのままじゃばい菌が入っちゃうかもですね。保健室で絆創膏でも貰って来ますね。」
「わ、私が保健室に取りに行ってきます!一之宮先生はここで待っていてください、いいですね!!」
「あと、これからはペットボトルの飲み物を貰って飲みたくなったら私に言ってください!私が蓋を開けますから!」
「はあ…」
私はあかりが返事をするのを確認すると、急いで職員室を出て保健室に向かった。
保健室に向かいながら、さっきの無邪気なあかりの行動に口元が緩んで私は笑った。
女の人を見て楽しく思えたのは初めてだった。
この日から、私はあかりのことを女性として興味を持つようになった。
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