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第1章
目の前にあるのは、野暮ったい雑居ビル。燦々と輝く太陽がコントラストとなり、ビルのみすぼらしさを強調している。
思わず我が目を疑い、建物の名前を確認するが、やはり指定されたビルである。となると、このビルの二階が『派遣会社Marple』のはずだ。
俺は今日、ヒーロー派遣会社のバイトの面接を受けに来ている。現在十六連敗中なだけに、今日こそはものにしたい。
ヒーローとはいうものの、俺にスーパーパワーはない。というか、そんなものを持っている人がいるならお目にかかりたいものだ。
ヒーロー派遣会社とは、ヒーローに扮した従業員を派遣して仕事を請け負う代行業者のことである。その仕事は学童保育の手伝いから不良の対処まで多種多様だが、共通して言えるのはヒーローの活躍によって救われる人々がいるということだ。
俺もそのようなヒーローになりたい一心で、これまで幾度となくヒーロー派遣会社のバイトに応募した。だが、その結果は連戦連敗。何度心が折れそうになったことか……。
その原因はおそらく、俺の貧弱な容姿だろう。筋肉ついてないし、目に覇気もないし、色も白いし……。
ネガティブな思考にふけっていると途端に、陰鬱な気持ちになってきた。
「大丈夫……、俺はなれる。Mr.オウルのようなヒーローになれる」
憧れのヒーローの名を出し、自己暗示をかける。緊張のため動悸が激しくなってきた。
前回の面接で落とされたとき、意気消沈する俺を見かねたのか、面接官が紹介してくれたのがここである。
面接官が言うには、ここなら採用の余地があるそうだ。
その言葉に浮き立ちながら来てみたら、この有り様である。そもそもここ、本当に営業してんの?
件の派遣会社と思しき部屋は、明かりが灯ってないうえに、窓は全く手入れされていないのか汚れが目立つ。清潔感のあるクリーム色のカーテンとその汚れの相乗効果で、逆に不潔感が際立っている。
昨日電話した時には、女性の方が出た。声からは気だるさが感じられたものの、おそらく年齢は俺とさほど変わらないくらいだろう。バイトの面接を受けたいという趣旨を述べたところ、すんなりと話が進んだ。
大丈夫、俺ならできる。俺ならきっとなれる。むしろ俺はヒーローになるために生まれてきたんだ!
意気込みも新たにビルの入り口に入ろうとしたとき、背後から声がかかった。
「このビルがどうかした?」
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