天の加護

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 午前十時、開店のテーマ曲〝軍艦マーチ〟が、不埒者の欲望を急き立てるかのように鳴り響いた。剛はポケットの奥底に隠し持ったパチンコ玉を握り締め、 「これは、親孝行だ!」 「学費を稼ぐためだ!」と、 お経を唱えるように繰り返しながら自己の思惑を正当化し、 「今日も失敗はできません!」 「何卒! 宜しくお願いします!」と、 幸運の女神に祈りを捧げ、鞭を入れられたサラブレットさながらに怨嗟の的へ突進した。  剛は、パチンコ台の左右のチューリップを射角内に収め、器用な指先と絶妙のタイミングでパチンコ玉を素早く連射し、一台目のパチンコ台の剥奪攻略に成功した。そして、右へさらに 右へとあたかも歌舞伎役者の舞いのような軽いフットワークで颯爽に渡り歩き、暗黙の掟に従って三列目のパチンコ台二十台のテリトリーを完全制覇した。時間にすれば高々二十分弱のアルバイトで、二千円の現金とタバコ一個を詐取し、一目散に退散した。  この三カ月間、剛は多勢の不埒者の追従を許さない稀代の才能で、連戦連勝の甘い汁を吸っていた。
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